第4章 月を捕まえる(月島蛍)
そりゃ、そうだよね。
勉強に興味がなくなちゃってからは、この進学クラスに不釣り合いな成績しかだしてないもの。
あぁ、もうちょっと言い方考えれば良かった。
でも、月島が欲しい、名前が欲しい、なんてプロポーズ紛いの事なんか言えないし。
「…君、面白い事言うね。」
降ってきた声と後ろ頭に軽く当たる何かの感触。
顔を上げて感触の正体を確かめるよう手で触れた。
ノートだ。
「答えたから、ご褒美だよ。」
「有難うございます。」
ノートを受け取り、恥ずかしさで直視出来ないからそれで顔を隠した。
「…早く写したら?休み時間中に返してよね。」
「10分くらいで写しきれる自信がアリマセン。放課後まで貸して下さい。」
「…嫌だよ。早くやれば?」
それだけの言葉と溜め息を残して、月島はそっぽ向いてしまう。
あ、折角の月島を正面からちゃんと見るチャンスだったのに、自ら見るのを逃してしまった。
勿体ない事をしたな、なんて後悔をしながら月島のノートを開く。
あの、大きな手から書かれた、意外にも細くて繊細な文字。
無駄な落書きとか、色の付いたマーカーとか使われていない簡素なノート。
月島の淡々とした性格が現れている気がした。