第1章 前編
「初めまして、今回派遣されたケアロボット、ユーリと言います。今日からお世話になりますので、どうぞよろしくお願いします」
ローが扉を開けると、そこには死んだはずの彼女がいた。
一瞬幻覚を見ているのかと目を瞬かせるが、上記の言葉を言われて現実に戻った。
「そんなものを頼んだ覚えはねぇが」
ローは扉に寄り掛かると、目の前のロボットを睨みつけた。
そんな彼の視線を恐れていないのか、そいつは無表情のまま言葉を続けた。
「契約者はつるさんですが、対象者はローさんです。話を聞いていないのですか?」
淡々と話しているそのロボットは、ユーリを投影しているだけあって非常に達が悪い。
表面上は冷静を繕っているローだが、内心は少しばかり動揺していた。
話し方も、性格も、何もかも違うのに、姿が一緒だというだけでここまで心がかき乱されるのか。
ローは舌打ちをした。
ローの意見を無視して勝手に依頼していたあいつにも苛立つが、今ここで動揺している自分自身に一番腹が立った。
「話は聞いたがおれは受けるとは言ってねぇ。邪魔だ、さっさと帰れ」
ローはそう言って扉を閉めようとした。
これ以上彼女を投影したまがい物を、視界に入れたくなかった。
「ちょっと待ってください」
だが扉を閉めようとした瞬間、どういうわけかそれをその女が止めてきた。
「契約破棄ですか?それならば幾つかの注意事項と、書いてもらう書類があります」
扉に手をかけた女がじっとローを見上げる。
その瞳は、ユーリが持っていたものと何ら変わりはなかった。
ローは思わず視線を逸すと、その先で時計が視界に入った。
会議自体はまだ始まらないが、それまでにやることが色々ある。
こんなロボットの相手をする時間など、今の彼にはなかった。
「書類は契約者にでも頼め。俺は忙しいんだ」
ローは荷物を手に取ると、扉に鍵をかける。
そして何か言いたげなそのロボットを置いて、その場から立ち去っていった。