第2章 後編
「…やっと、泣いてくれましたね」
ユーリは首元からナイフを離すと、彼の上から降りた。
それを信じられないような表情で見ている彼。
彼女はナイフを地面に落とすと、彼の涙を優しく拭った。
「すいません。私は1つだけ契約違反をしました」
あなたの望みは、叶えてあげれません。
ユーリはもう死んだんです。だからそれを、受け止めてください。
彼女はローの手を引き起き上がらせると、そっとその身体を抱きしめた。
静かに涙を流し続ける彼。
漸く状況が理解できたのか、まるで何かが壊れたかのように泣いていた。
「どうか思い出してください。彼女の最後を。彼女は本当に、あなたを恨んでいましたか?」
ユーリはローの額にゆっくり自分の額を当てると、彼の中に眠る記憶を呼び起こした。
処刑台に立たされているユーリ。
違う、私じゃないと何度も叫んでいた。
その中でローに下された命令。
交わる視線。流れていく時間。
「……ッ!」
ローの目の前で、あの時の光景がはっきりと映った。
「…あ…いつ…は」
ローは最後まで命令を出せなかった。
そんな彼に、ユーリは困ったように笑みを浮かべていた。
そして……
「…どうし…て」
ーーーーありがとう
ユーリはその言葉と共に、自らその海へ身を投げ出した。
最後まで彼女は、笑っていた。