第2章 後編
彼女はケアロボットとして、1つだけ命令違反を犯している。
それは彼の望みが分かっても尚、それを実行しないことだ。
なぜそれを実行しないのか。
きっとそれをやってしまうと、ローに幸せになって欲しいと思う彼女の願いが、叶う事のできないものになってしまうかもしれない。
「…やっぱり馬鹿だな、お前は。何か言ったかと思えば結局おれのことかよ」
ローは苦笑した。
どこまでも純粋にローを思っている彼女。
例えそれがプログラムされたものであるとしても、ローの心にその言葉は伝わっていった。
「……始めて笑いましたね」
ユーリは少し驚いた表情をした後、彼女も少し笑った。
「お前もあんまり笑わねぇだろ」
ローは彼女の頬に手を伸ばすと、そっと撫でた。
「あなたが怖い顔をしてるのに、私だけ笑うわけにもいきませんから」
「……悪かったな。この顔は元からなんだ」
そう言って2人はまた笑った。
ここに来て初めてローは、このロボットに少しだけ歩み寄ろうと思ったのかもしれない。
いい加減過去にとらわれず、前に進もう。
そう思えるくらい、彼の心は変わりつつあるのかもしれない。
「もう少し寝る。…起きたら飯を食べるから作れ」
ローは彼女の膝に頭を預けたまま再び目を閉じた。
ローの味覚はまだ戻らない。
だけど、彼女の作る料理を食べると、少しだけ心が安らぐ感じがした。
今だってそうだ。
優しく髪を撫でる彼女の手に、心が安らぐような、そんな感覚がする。
その心地よい感覚に誘われるように、ローはすぐに深い眠りに入っていった。
ここ最近よく寝れているおかげなのか、彼の眼の下の隈も大分薄くなっている。
「…早く、起きてくださいね」
彼女はそんなローを、少し悲しげな表情で見ていた。