第2章 後編
それから日にちばかりが過ぎていく。
ローはここ最近、再びうなされるようになっていた。
その度に彼女は、彼の頭を膝の上に乗せて優しく髪を撫でている。
どんなに邪険に扱われようが、それで彼が安らぐならばそれだけでよかった。
「…ここ最近、あなたに触れる機会が多くなったので、色々な情報を読み取ることができました」
今日もユーリは眠っている彼を膝の上に乗せて、ゆっくりと髪を撫でていた。
「その結果、あなたの望みも分かりました」
無表情で彼を優しく撫でているユーリ。
ケアロボットの仕事は対象者の癒しだ。
その為に付けられた能力が、相手に触れることによって心や記憶を読み取れる力である。
そして対象者の望みを理解し、叶えて、心を癒していく。
それが一般的な流れだ。
ユーリは髪を撫でていた手を止めると、ローを覗き込んだ。
先ほどまでうなされていた彼の表情は、幾分か和らいでいるように見える。
「…もう十分だと思いますよ」
ローの心に触れた彼女は、彼の望みを実行するのを躊躇している。
なぜ躊躇する必要があるのか、それは分からない。
ロボットである彼女に、感情はないはずだ。
ただ未だに実行できないでいる。
己では処理できない何かに、彼女はずっと苦しんでいた。
「……そろそろ、目を覚ましませんか?」
彼女はローから視線を逸らすと、辺りを見渡した。
彼女の瞳には何が写っているのか。
それは彼女しか分からない。
「本当はあなたの望みを、叶えてあげるべきなのでしょうね」
静かに呟いた彼女の言葉が、部屋の中に響いて行った。