第2章 後編
「あまり自分を追い詰めないでくださいね」
ローが考え込んでいると、不意にロボットが口を開いた。
「あなたの望みは何ですか?」
「…望み、だと?」
ゆっくりと視線を合わせると、相変わらず光のない瞳がこちらをみていた。
望みなど、そんなものあるはずがない。
「…ねぇよ、そんなもの」
ローは彼女から視線を外すと、再びぼんやりとしていた。
どこへ行きたいのか、何をしたいのか、何が欲しいのか、何も分からない。
ただ、無意識に毎日同じことを繰り返しているだけだ。
そこに、生きている意味はあるのだろうか?
「私では、ユーリになれませんか?」
ロボットの言葉に、ローは視線を合わせないまま眉をひそめる。
ユーリはもう死んでいるのだ。だからと言って変わりが欲しいわけではない。
もし、望むとするならば、あの日の自分を…
「…っ」
手のひらに感じた感触に、ローは思わずビクリとする。
静かに触れられた彼女の暖かい手。
ロボットなのに人の温かさを感じるそれ。
ローの表情はどんどん険しくなっていった。
「泣きたい時は、泣いていいんですよ」
「…おれが泣くわけねぇだろ。馬鹿かおまえは」
ローは彼女の手を振り払うと、その場から立ち上がった。
時間的にはもう夜だが、何時の間にか仮眠を取っていたせいでまだ残っている仕事がある。
ローは机に座ると、書類に目を通し始めた。
そんな彼の姿を、ユーリは少し悲しそうに見ていた。