第2章 後編
「…随分と楽しそうじゃねぇか」
2人の間に沈黙が落ちると、突然響き渡ってきた声。
ユーリの身体は、一瞬強張った。
ゆっくりと近づいてくる足音は彼女へと向かってくる。
そして止まった足音にユーリが顔を上げると、そこには久しぶりに見るローの姿があった。
無表情で上から見下ろしてくる彼の瞳には、ここ最近見ていなかった狂気の炎が灯っているように感じた。
「…死の外科医」
ローの後ろで、少し驚いたような表情をしているエースが目に入る。
エースが驚くのも無理はない、彼は元々本部の人間だ。
インペルダウンのしかも最下層に、彼がわざわざ足を運ぶ理由など想像もつかないだろう。
ローはエースの言葉に一瞬視線を寄こしたが、すぐにそれはユーリの瞳を捕らえた。
ユーリは伸ばされた鎖のおかげで、ギリギリまで鉄越しに近づいてエースと話していた。
エースは腕を壁に固定されているので、こちらにはこれない。
いくら正面にいると言っても、それなりに距離はあった。
だから彼女は少しでも話しやすくするために、鉄越しの前まで来ていたのだ。
「…っ!?」
ユーリは咄嗟に檻の奥に逃げようとしたが、間一髪でローの手がユーリの首輪を掴み上げる。
締まる首にユーリから苦しそうな声が漏れた。
「おい、何をしてるんだ!?」
エースの声が牢の中で響き渡る。
エースは2人の関係がどんなものか知らない。
だが、目の前でいきなりそんな光景を見せられればそれなりに動揺する。
死の外科医として異名を持つ彼が、残忍な性格なのは知っていた。
だからと言って、何の理由もなく彼女に手を出す彼の意図が分からなかった。
「黙れ」
風を切る音が、一瞬響き渡る。
ユーリから手を離し、何時の間にか鬼哭を構えている彼。
激しく咳き込んでいるユーリ。
エースは、頬から血が流れるの感じた。