第2章 後編
エースが投獄されて早5日。
2人はこれ以上話すことがないと言うくらい、会話をしていた。
エースとの会話は非常に楽しかった。
きっとそれは彼が明るくて人懐っこく、礼儀正しい一面があるからだろう。
だから会話も自然と弾む。
エースについて色んなことを知った。家族、仲間、やりたいこと、好きなもの、嫌いなもの。
それは向こうも同じだろう。
「なぁ、もしここを出れたら、あんたはどうするんだ?」
会話の途中で不意に聞かれたその質問。
ここ最近考えてなかった、その未来。
「さぁ…あまり考えたことないですね」
ここに来てから、あまり脱獄後のことは考えたことなかった。
もちろんユーリも、再び仲間と出会える日を夢見ている。
だけど、彼女がここを脱獄するとローに大きな影響を与える。
その事実が、彼女をこの冷たい監獄に縛り付けていた。
「なんだ?もしかして行く宛てでもないのか?」
ユーリの深刻そうな表情をどう捉えたのか分からないが、エースは困った笑みを浮かべながらそう尋ねてきた。
エースのその言葉に、ユーリは再び考え込む。
行く宛ては、あるのだろうか。
クルー達は無事に生き延びているだろうか。
考えれば考えるほど暗くなるその未来に、ユーリは曖昧に笑って誤魔化すしかなかった。
「…はぁ。そんな顔するなよ。…行く宛てがねぇなら俺と一緒に来るか?」
ユーリの痛々しい表情を見て、彼の表情も更に歪む。
そして優しい彼はそう提案してくれた。
「そうですね…その時はお願いします」
例え冗談だとしても、彼の気づかいはありがたかった。
だからユーリは、困ったような表情をしながらも素直に礼を述べる。
そんな彼女の返答に、エースは複雑な表情をした。
ユーリは冗談だと思っているようだが、割と彼は本気で言っていた。
たった5日間という短い期間だが、エースはユーリという人物に惹かれつつあった。
それが恋愛感情なのかと聞かれれば分からないが、ボロボロの身体になった彼女をほっとけない。
そう思うくらいには、彼女のことが気になっていた。
だが全てはここを出てからだ。
人の心配するより、まずは自分をどうにかしないといけない。
エースは苦笑すると、檻越しにユーリをぼんやりと見ていた。