第2章 後編
エースが投獄されて3日が経った。
2人は相変わらず他愛もない会話を繰り返している。
ほとんどの内容は、お互いが船長だった頃のものだが、それでも新鮮で面白かった。
お互い処刑される者同士、心を開くのに時間は必要なかった。
今日はお互いの能力について話していた。
本来は敵同士なのだが、なんとなく目の前の相手は信頼できるとお互い感じていたので、普通に話していた。
「…おまえ、それ大丈夫かよ?」
エースはユーリの能力のハンデを聞くと、痛々しそうに表情を歪ませた。
海賊だというのにどこまでも優しい彼の態度。
ユーリは苦笑して大丈夫だと伝えた。
失った味覚、右目の視力、そして鈍くなった手足の神経の動き。
どれも取り返しのつかないもので、今更どうすることもできない。
自分で言っておいてなんだが、彼に心配をかけるのは申し訳なかったので、この話は打ち切ることにした。
「私の心配はいらないですよ。それよりも、どっちが先に処刑されるんでしょうね」
まるで世間話のように死期を語るユーリ。
そんな彼女は肝が据わってるのか、諦めているか、自棄になっているのかは分からない。
だけどエースは、そんな彼女のその話題を面白く感じた。
「さぁな?多分俺が先だと思うぞ」
「私が先に捕まったのに?」
「あぁ、俺はちょっと特殊なんだ。政府は早く俺を処刑したがってるだろうな」
目の前でニヤリと笑いながら話すこの男からは、死期が近いというのに恐怖も何も感じない。
それはユーリにも言えることなのだが、彼女は少なからず恐怖を抱いていた。
だからそんな彼が、素直に凄いと思った。
「それは、ご愁傷様です」
「ははっ、完全に他人事だろ」
「いえいえ。もしチャンスがあれば、脱獄を手伝ってもいいですよ?」
不敵な笑みを浮かべながら話すユーリに、エースは少し目を見張った。
恐らく冗談なのだろうが、何となく彼女が本気で言っているような気がした。
根拠はなにもない、これはただの勘だ。
「そうか、それは助かるな」
だが、エースは直ぐにその考えを打ち消すと、笑みを浮かべた。
先の分からないことを考えても仕方ない。
その時が来るまで、今はただ待つしかなかった。