第2章 後編
ユーリとローの関係が悪化した頃、エースがこの監獄へ投獄された。
部屋はユーリと同じ地下6階。ユーリがいる向かいの檻の中だ。
傷だらけの彼を見てユーリは驚いた表情をしていた。
「ここは拷問はないと思いますが、どうしたんですか?」
ユーリが話しかけたことで初めて人がいると気づいたのか、彼はゆっくりと視線を向けてきた。
「ははっ、ちょっと色々あってな」
はにかんだように笑う彼からは凶暴さも悪意も感じられない。
だからユーリは少しだけ安堵し、話し相手が増えたことに喜んだ。
あの日以降、ローがこの檻を訪れることはなかった。
完全に自業自得なのだが、暗闇の中で1人で過ごし続けるのは、中々辛いものがある。
それに、死期を悟っていた彼女は、寂しさと悲しさ、そして死への恐怖の気持ちが大きかった。
だからユーリは、この日を境に目の前の男とよく話すようになった。
少しでも気を紛らわせるために。
また目の前の男が火拳のエースだと気づくのに、そう時間はかからなかった。
それは相手も同じようで、お互い噂でしか聞いたことのないもの同士だが、意外にいい奴だと認識し合うとすぐに打ち解けた。
「てかあんたも傷負ってるみたいだけど、どうしたんだ?」
エースの言葉にユーリは思わず自分の身体を見た。
最近は鞭で打たれてないが、まだその傷は癒えてはいない。
服で覆われていない部分は勿論だが、服も所々破けておりそこからも生々しい傷跡が残っていた。
決別する少し前、なんの気まぐれかは知らないが、ローがそれらの傷を治療していった。
それでも傷跡が消えるまで時間はかかるそうだが、彼の行動はユーリを驚かせるには十分だった。
「あーこれは、ちょっと色々とありまして」
ユーリは曖昧に笑って誤魔化した。
「なんだそれ、俺と一緒かよ」
エースはそんな彼女を見て苦笑すると、それ以上突っ込んで来なかった。
そんな彼の気遣いが、ありがたかった。