第2章 後編
髪飾りを手に持ち、じっと見つめている彼女の頬に手を添えると、ゆっくりとこちらへ向ける。
こいつはユーリとは違う、違うと分かっている…
だけど…
ローは頬に回していた手を後頭部へ回し、彼女を引き寄せた。
彼女は静かにローを見ている。
瞳を閉じるわけでもなく、ただただローを見つめていた。
彼女の瞳に映るものは…何もなかった。
暗い闇のような瞳の中に見えるものなど、あるはずがない。
「…ッ」
2人の唇が振れそうになるギリギリの所で、ローは動きを止めた。
彼女は相変わらず、ローを静かに見ているだけである。
その表情から読み取れる感情など、分かるはずもない。
ローはため息を吐いた。
そして彼女を解放すると、ゆっくりと離れていく。
「…シャワー浴びてくる。おまえは先に寝てろ」
ローはそれだけ言うと、彼女を置いて浴槽へ向かった。
彼女は一言返事だけをして、大人しくそれに従う。
彼女が何を考えているのか、分からなかった。
水の流れる音が浴槽に響いてくる。
ローは頭からシャワーを浴び続けていたが、ふいに壁を叩きつけると舌打ちをした。
彼女が笑ったあの一瞬、ローは我を忘れた。
ただ彼女が、ユーリが欲しいという感情に支配されて、それを実行しようとしていた。
だが、闇のような瞳を見て、ローは目を覚ました。
いったい何時までこの茶番に付き合わなければいけないのか。
あのロボットの存在は、確実にローの心を乱している。
それはきっと、悪い意味でのほうなのだろう。
だが、そうはいっても、今更彼女を捨てることなどできるはずもない。
ぐちゃぐちゃに混ざり合った感情を整理するため、ローは大きく深呼吸した。
シャワーを止めると、静寂な空間が生まれる。
ローはゆっくりと瞳を閉じた。
瞳の中に映るユーリは、何時も笑っていた。
ユーリを投影しているようで、どこか違う彼女。
そんな彼女に、自分はいったい何を求めているのか。
ガッ
ローは頭を壁に打ち付けると、浴槽を後にした。
ロボットを見ているのか、ロボット越しにユーリを見ているのか、もう…分からなかった。