第2章 後編
その後、任務が予定よりも早く終わったため、ローは数日間この島に滞在することにした。
ここ最近ずっとあの監獄にいたので気晴らしのつもりだったが、ローがホテルに戻るのは夜遅い時間帯だけである。
朝になれば彼はフラリと出て行ってしまう。
ユーリは特にそんな彼を気にすることはなかった。
ただ、彼女は彼が戻ってくるまでずっと起きていた。
一度ローは先に寝てろと言ったが、それでも彼女は起きていた。
そんな彼女の意図が分からず聞いてみると、そうしたいだけですとしか答えは返ってこなかった。
ローは納得できなかったが、これ以上追求しても無駄だと思い諦めた。
そして今日もホテルに帰ると、案の定彼女は起きて待っていた。
「おかえりなさい」
窓から外をぼーっと見ていた彼女は、ローに気づくと何時も言っている言葉を伝える。
それにローが答えるわけでもないのに、彼女は懲りずに止める気配はない。
それは、ロボットとして派遣されてきた当初から変わらなかった。
「…ちょっとこっちにこい」
ローはそんな彼女をソファーへと呼んだ。
明日にはインペルダウンへ戻る。
結局彼女は初日だけ街を散策し、後はずっとホテルにいたようだ。
気が付けば、ローがホテルに帰る時間帯も日に日に早くなっていった。
そんな自分自身に苦笑すると、ソファーの隣に大人しく座った彼女に、先日見つけた髪飾りを渡した。
青い花のそれは、ユーリにあげたものとは色違いだが、形は同じだ。
ローがそれを彼女にあげた理由。
それは、よく分からなかった。
あの髪飾りを見つけてから、ローの心は落ち着かなかった。
そしてそんな自分自身にイライラすること数日、気がつけば買っていた。
そんな自分自身に最早ため息しか出なかったのだが、買ってしまった物を捨てるのも気が引けるので、結局彼女に渡すことにしたのだ。
「…ありがとうございます」
興味深そうにその髪飾りを見ていた彼女だが、ふと口元を綻ばせて礼を言ってきた。
始めて見る嬉しそうな表情の彼女に、ローは軽く息を呑んだ。
第三者からみればこのロボットの表情の変化など、見分けがつかないだろう。
だが、何だかんだでここ最近一緒にいたローは、分かってしまった。
そしてその表情は、ユーリを思い出させるには十分だった。