第2章 後編
「ユーリ、今から話すことをよく聞け」
ローはユーリの所に戻ると、檻の鍵と手錠の鍵を投げ渡した。
それを驚いたような表情で受け取ったユーリ。
ローは檻越しにユーリを抱きしめると、静かに話し始めた。
「おまえを、ここから逃がしてやる」
2人の間で紡がれていく言葉。
脱出経路。警備員の配置。この牢獄の島にある、特殊な扉が開かれる時間。
淡々と話していくローの言葉に、ユーリの表情は次第に強張っていった。
囚人であるユーリが逃げれば、彼はどうなる?
ユーリの管理は全て彼に任されているはずだ。
更には首輪を付けているにも関わらず、ユーリを取り逃がしたとなれば……
「この首輪の外し方だけ分からなかった。すまねぇが、ここを出たらワノ国に向かえ。そこに…」
「違う、そんなことを心配してるわけじゃない!」
ユーリの表情が曇ってるのを何か勘違いしたのか、ローは彼女の首輪に触れながらその外し方を教えようとしていた。
ユーリは彼の手を掴むと、ゆっくりと首を振った。
「私が逃げればあなたはどうなる?そんなこと、出来るわけがない」
ユーリの言葉にローは軽く目を見張る。
この期に及んで人の心配などとは、随分なお人好しだ。
だが、そんな彼女だからこそ、彼は好きになったのだろう。
ユーリの言葉はありがたかったが、彼の中にあった迷いは、もうここにはなかった。
「出来る出来ないじゃねぇ、やるんだ。それとも、最後までおれに命令されたいのか?」
突き放すように言われたその言葉に、驚いた彼女は少し距離を取った。
彼の瞳には、ここ最近感じていた優しさなどはない。
「8時間後、指定した場所に来い。おれはそこにいる」
ローはそれだけ言うと、ユーリを手放し牢屋を後にした。
ユーリは慌てて彼を呼び止めるが、彼が振り返ることはなかった。
ユーリの脱走が彼にどう影響するのか、分からない。
もしかしたら、ただの杞憂に終わるかもしれない。
でも、そうじゃなかったら……彼は…
その場に残された彼女の瞳は、迷いで揺れていた。