第2章 後編
ユーリの右目の視力が失われて数日後、ローに気づかれてしまった。
流石医者の知識があるだけあって、隠し通せなかったようだ。
「なぜ黙ってた!?」
鬼のような形相で怒りを露わにする彼。
ユーリは苦笑して謝るしか出来なかった。
そんな彼女に益々表情を厳しくしたローは、舌打ちすると牢獄を後にした。
インペルダウンを後にした彼の向かう先は海軍本部。
ローはユーリを、自分の部下として引き入れる旨を上申した。
表向きは彼女を処刑し、その力を失うのは惜しいから。
しかし実際には、ユーリにこれ以上力を使わさせない為だ。
己の配下に置き囚人じゃなくなれば、ユーリをどうしようがローの自由だ。
今もユーリに関する権限は全てローにあるのだが、所詮は囚人。
使い物にならないと分かれば、すぐに処刑されるだろう。
そうなる前に、あの牢獄から解放する必要があった。
ローは目の前で鋭い視線を向けて来る元帥を睨みつけていた。
囚人を部下にするというローの提案は、海軍にとっては酔狂なものだろう。
だが、彼女の力の利用価値は知っているはずだ。
ローは引かなかった。
そして静かに睨み合いが続いていたが、ふと元帥が笑った。
「あながち、噂は本当だったようだな」
何やら含みのある言い方をする目の前の男に、ローの眉間に刻まれたシワは深くなった。
「あれだけ任務に駆り出されたんだ。そろそろ彼女の身体に異変が起きてもおかしくないだろう」
元帥の言葉に、ローは僅かに表情を歪ませる。
上層部は、ユーリの力が己の身体を犠牲にしてるものだと知っていた。
知っていてなお、その事実を黙認していたのだ。
ローは握り締めていた拳に力を入れると、殺気を膨らませる。
そんな彼の態度に、男は鼻で笑うだけだった。
「いい加減目を覚ませ。お前の話を聞いて、彼女がもう使い物にならないのは分かった。近日中には処刑となるだろう」
その執行人におまえを任命する。
静かに告げられた言葉。
恐らくローにけじめを付けさせる為だろう。
その言葉に、ローは目の前が真っ暗になる感覚に陥った。
上官の命令には絶対服従。
それがこの組織のルールだ。
だが…
ローは無言でその部屋を去っていく。
彼の瞳には、もう迷いはなかった。