第1章 前編
ユーリが味覚を失って1ヶ月が経った。
相変わらず任務へ連れて行かれる彼女。
ここ最近、彼女は右目の視力を失い、手足の神経も違和感を感じるようになった。
だけど、彼女は決してそれをローに伝えなかった。
彼の前だけは、ふらつく体に叱責し普通に振る舞っていた。
なんとなく、彼に責任を感じて欲しくなかった。
今日も2人は適当な島に立ち寄り時間を潰していた。
ローはある雑貨屋に入り何かを見ているようで、ユーリはそれを外からぼんやりと見ていた。
ここ最近耳にした噂話。
それは、ローが囚人である私に対して特別な思いを抱いているというものだった。
ーーーその貧相な身体でどうやって誑かしたか知らないけど、囚人の分際で調子に乗るんじゃないわよ
少し前に女海兵から言われたその言葉。
そして、私の存在はローに取って足枷でしかないと。
現時点ではただの噂話だが、きっとこれはローの立場上良くない傾向なのだろう。
そして当の本人は自分のことなのに我関せずで、今日もユーリと一緒に行動している。
私はどうすればいいのだろうか。
ユーリは首輪にそっと手を触れて、これから先のことを考えた。
ただの囚人であるユーリに対しての、ローの行動はおかしいと流石に分かっていた。
もし、彼が私を逃すようなことをすれば、その罪を問われて変わりに彼が処刑されるのだろうか。
ローがそんなヘマをするとは思えないが
たどり着いたその可能性に、ユーリは表情を青ざめさせる。
彼がなにを考えているのか分からない。
でも…もし、許されるのならば…
「なに辛気くせぇ顔してんだ」
ユーリが物思いに耽ってると、突然降ってきた声。
目の前にはいつのまにかローが立っており、怪訝な表情でこちらを見ていた。
ユーリは曖昧に笑い、少し疲れててと誤魔化す。
そんなユーリの言葉を聞き、探るような瞳をしていたローだったが、そっとため息を吐くと彼女の隣に腰掛けた。
そして何の前触れもユーリの髪に触れる。
ユーリは少し驚いたが、彼の好きにさせていた。