第1章 前編
「この前、髪が邪魔だと言ってただろ」
ローの手がユーリの髪を1つに束ねる。
彼の手には、赤い花の髪飾りが持たれていた。
ユーリが不思議そうな表情でその髪飾りを見ていると、ローはそれを束ねた髪につけた。
白い髪に映える綺麗な赤の髪飾り。
ユーリは彼の意図が分かり、驚きで固まっていた。
だが、すぐに笑顔を作ると彼にお礼を述べた。
「ありがとう。ロー中将」
少し前に言った何気ない言葉を、ローは覚えてくれていた。
たったそれだけのことが、どれだけ彼女の心に染み渡ったか。
ユーリは泣きそうになりながらも、しっかりとローを見つめていた。
感謝の気持ちと、愛しさを込めて。
「…階級呼びは止めろ。お前はそんなガラじゃねぇだろ」
そんな彼女の瞳に、ローは少しばつが悪そうな表情を作った。
そして目線をそらしながらそう伝えて来る彼。
ユーリは彼の様子に笑みをこぼすと、静かにローの名前を呼んだ。
ユーリに呼ばれると、それに応えるように再び視線が交わる。
ユーリの髪を優しく撫でる彼の手。
彼女を見つめる彼の瞳は、優しい色をしていた。
そして彼の手がユーリの頬に触れると、彼女はそっと瞳を閉じる。
静かに交わる唇。
本当は、気づいてた。
口付けから解放されると、彼に抱きしめられた。
心地よい彼の心音を聞きながら、ユーリはそっと目を閉じる。
私は、いつのまにかローを好きになっていた。
それは決して許されることではない。
でも…
もし許されるのならば……
一緒に何処か遠くへ、逃げたかった。