第1章 前編
ロボットである彼女の作る食事を食べ始めて数日後。
彼女は何を思ったのか、今度はコーヒーを作ってくるようになった。
静かにテーブルに置かれたそれを、ローは暫く無言で睨む。
そしてそれを置いた本人は、そんなローをじっと眺めてくる。
そして沈黙が流れること少し。
ローはため息を吐くと、渋々それを口にした。
もちろん味なんて分からない。
ただ、何となく身体が落ち着くような感覚がした。
彼女はそれを見て満足そうに微笑むと、静かにその場を去っていく。
ローはそんな彼女の後ろ姿を目で追った。
そういえば最初に比べて、彼女の表情は少し豊かになった気がする。
ローはコーヒーをゆっくり飲みながら、そんなことを考えていた。
だが、彼女から言わせてみればそれはローも同じだった。
本人は気づいてないが、彼の表情も最初に比べて僅かではあるが和らいでいた。
そしてそれに合わせたように、彼女の表情も和らぐ。
それはまるで、合わせ鏡のようだった。