第1章 前編
ローがロボットを部屋に招きいれて、数日が経った。
彼女は相変わらず飽きもせずに、ローの身の回りの世話をする。
結局彼女の寝場所はローの寝室になり、あれから一緒に寝ている。一緒に寝るといっても、無機物学上女だけのロボットに、ローが手を出すはずもない。
寝床を共にし始めても、2人の間に会話らしい会話は増えなかった。
だけど、そんな変わらない日々の中で少しだけ変化があった。
それはローが彼女の作るご飯を食べるようになったことだ。
彼女を招き入れた次の日も、何時ものように机に並べられていた食事。
食べないのですかと、彼女は相変わらず尋ねてきた。
ローは沈黙すること数秒、黙ってテーブルの前に座った。
そして黙々と、用意された朝食を口にする彼。
そんな彼の姿を見て、少しだけ嬉しそうにした彼女の表情。
その表情に、ローが気づくことはなかった。
見られている気がして視線を向ければ、彼女は黙々と食事をしていた。
2人の間で静かな時間が流れる。
ここ最近、ずっとそんな感じだった。
そういえばと、ローは目の前の女を見た。
今日も自分で用意した食事を口に運んでいる彼女。
彼女と一緒に寝始めて、悪夢にうなされることがなくなりつつあった。
それがいったい何を意味するのかは、分からない。
目の前の、ユーリと同じ容姿をしている彼女。
その彼女の存在が、少しずつローの中に入り込んでいる。
それは良いことなのか、悪いことなのか。
そんなことをぼんやり考え込んでいると、ふと彼女と目が合った。
相変わらず何を考えているか分からないその瞳。
「口に合いませんでしたか?」
いつの間にか険しい表情になっていたのか、心配したように彼女は尋ねてきた。
「・・・いや」
ローはそれだけ言うと、残りの食事を口に運んだ。
正直、味なんてよく分からない。
ユーリを処刑したあの日から、ローの味覚はなくなった。
それは彼女の呪いなのか、己の問題なのかは分からない。
味覚がなければ当然食欲もなくなる。
もちろんその事実を知っているのは、ローだけだが。
ローは食事を終えると食器をキッチンへ運び、コートを身に纏い準備を始める。
味覚もなく食欲もない彼が、彼女の作った料理を食べる理由。
それはもしかしたら、彼の中に眠る懐かしい記憶が、影響していたのかもしれない。