第1章 前編
ユーリとローは予定通り任務へ向けて出発した。
インペルダウンを後にし、目の前に広がる海を見て、彼女の表情は少し明るくなった。
一週間に渡って行われた、侮辱ともとられる行為の数々。
流石の彼女も反抗的な態度は取らなくなった。
だからすっかり心が折れたのかとも思ったが、彼の予想ははずれた。
あなたには従うけど、別に負けたわけじゃないから。もう開き直ってやる!
海に出た瞬間、彼女が言ってきたその言葉。
その瞳には再び光が戻っていた。
ローが軽く口元を引きつらせてるのを、気づいているのかいないのか、彼女は船から見える海をずっと眺めている。
彼女を拘束するその黒い首輪。あいつはその意味が分かっているのだろうか。
ローはため息を吐くと、船内へ向かった。
目的の場所に着くまではここから数日はかかる。
目の前の女が開き直るならそれでいい。
最終的にローの命令に従うなら、それ以上追求するつもりはなかった。
彼女の戯言に付き合う時間も暇も彼にはない。
昨夜、本部から海兵を増援で送ると連絡が入った。
それだけ、今回の任務は大掛かりなものなのだろう。
だがローはそれを断った。
彼の中では今後の計画は既に出来上がっている。
わざわざ本部の力を借りずとも、ユーリがいれば十分だ。
彼女が持つ時を操る力。能力の詳細を聞いた時は、懸賞金5億ベリーでは少ないのではと思うほど、強力なものだった。
本部から送られてきた今回のターゲットの手配書。
彼は100人のクルーを引き連れている大海賊団の船長だ。
能力の詳細もすでに分かっている。
正直、ユーリの持つ力に比べればたいしたものではなかった。
例え100人のクルーを引き連れていたとしてもだ。
ふと船内の窓から外を見れば、ユーリの姿が見えた。
彼女はいつまでも、目の前に広がる海を眺めていた。