第1章 前編
「おはようございます。起きてください」
今日もローの自室では彼女の声が響き渡る。
結局、彼女をどうするか考えがまとまらないまま、毎日が過ぎて行く。
ローが起き上がると、彼女は満足したのか部屋を出て行った。
今日も懲りずに、あいつは飯を作ってるのだろうか。
ローはため息を吐くと、彼女の後を追う。
用意された食事には相変わらず口をつけないが、それでも彼女は作り続けた。
そんなある日の夜
ローはいつも通り彼女を部屋から追い出すと、残りの仕事を片付けていた。
そして暫く経ち、いい加減寝よう思い寝室へ向かおうとしたところで、あることを思い出した。
明日までに仕上げないといけない書類を、資料室に忘れたままだった。書類自体はもう完成してるが、資料を片付けるだけ片付けて、一番大事なものをそのままにしてしまった。
幾ら疲れているとはいえ、こんなミスは珍しい。
ローは己の失態に舌打ちをすると、服を羽織り部屋から出た。
「…おい、そんなところで何をしている」
ローが部屋を出ると、信じられないことにロボットが近くの壁に背を預けて座っていた。
時間は深夜。
まさかこいつはずっと今まで、此処で寝泊まりしてたのか?
この真冬の時期に?
たどり着いた可能性に、ローは頭を抱えた。
「何度か、あなたの寝顔を見たのですが」
ローが軽く混乱してると、彼女はふいに口を開いた。
その瞳は、静かにローへ向けられる。
「何かに怯えるように、いつもうなされてました。あなたが何を恐れているのか、私には分かりません。でも…」
目に見えるものくらいからは、守ってあげれると思いました。だから私は、毎晩ここで見張りをしてるんです。
静かに呟かれる言葉に、ローは目を見張った。
うなされていたことなど、今初めて知った事実だ。
そして彼がうなされてるいたと、初めて知ったその日から、彼女はここにずっといた。
こんな場所で、ローを襲うような奴がいないのは知っている。
だけど、彼女のその言葉は、ローの心の奥底へと落ちていった。
「もういい、分かったからこっちに来い」
ローは彼女の手を掴むと、部屋の中へ連れていった。
彼女の手が冷たいのはロボットからなのか、それとも凍えるような場所にいたからなのかは分からない。
ここに来て初めて触れた彼女の手。
それは、泣きたくなる程懐かしいものだった。