第1章 前編
「え、やだよ」
ローがユーリの元を訪れて話すと、予想通り彼女は拒否を示した。
「この期に及んでまだ拒否権があると思ってるのか?」
ローは牢の扉を開けると、呆れた表情で上からユーリを見下ろした。
ローを見上げている彼女の瞳にははっきりとした、拒絶が映っている。
「海軍の犬になるくらいなら、死んだほうがマシだ」
ローの言葉が聞こえてないのか、彼女の返事は変わらない。
こんな形で外に出れることなど、彼女は望んでいない。
ユーリは十代で故郷を離れたといっていたが、それには理由があった。
ユーリの故郷には世界政府の秘密を知っている人物がいた。
偶然知ってしまったのか、最初から知っていたのかは分からないが、それを理由に彼女の故郷は一瞬にして海軍に滅ぼされた。
生き残ったのはユーリだけだった。
大怪我を負いながら逃げ延びた彼女が、海軍へ恨みを持つのは当然だろう。
ローもユーリも、お互いがお互いの立場を憎んでいる。
それを話す機会は、お互い最後までなかったが。
挑発的な笑みを浮かべるユーリを、ローは無表情で見下ろしてた。
今回の件はローもあまり気乗りはしなかったが、どうも彼女は人を煽るのが得意らしい。
抵抗しても無駄だと分かってるはずなのに、相変わらずなその態度。
正直、気に入らなかった。
ガッ!
ローは彼女の髪を掴むと地面に叩きつけた。
「…っ」
彼女は一瞬表情を歪めただけで、声もあげることなくその瞳でローを睨んでくる。
あぁ、そうか。
暫くお互い睨み合いを続けていたが、ローにある考えが浮かんだ。
こいつに声を上げさせたいなら、何も外部的な痛みである必要はない。
口元に歪んだ笑みを浮かべたローは、ユーリのボロボロの服に手をかけ、破り捨てた。
突然の彼のその行動に、彼女の表情は驚きのものへ変わる。
ユーリの瞳が、少しだけ揺らいだ気がした。