第1章 前編
ロボットは相変わらずローの自室へ訪れる。
そして何時ものように部屋を片付け、時間をみて料理を始める。
だが今日は何かを見つけたのか、ローの元へ珍しく寄ってきた。
「これ食べてもいいですか?」
そう言って持ってきたのは瓶詰めにされた飴玉。
ローは一瞬目を見張ると、勝手にしろとだけ伝えた。
その飴玉は、ユーリへ持っていくために用意していたものだ。
使う機会がなくなり、すっかりその存在を忘れていた。
目の前で必死に瓶の蓋を開けようとするロボット。
ローは一瞬そんな彼女に視線を向けたが、再び書類へ視線を戻した。
「固すぎです。どんな馬鹿力で締めたんですか」
ローが仕事に戻ったのもつかの間、目の前に瓶を突き出された。
彼女の視線は開けろと訴えている。
ローはため息を吐くとその蓋を開けてやった。
そして渡してやると、お礼を言って飴を物色している彼女。
色んな色の飴玉が入っているのを見て、どれを取り出すのか迷ってるようだった。
「これは、りんご味ですね。美味しいです」
そしていつのまにか決まったのか、口に放り込んで勝手に感想を述べてきた。
「これは、なんだ?すっぱい、美味しくない」
次に放り込んだのはレモン味なのだろうか、貰っておきながら文句を言ってきた。
「仕事の邪魔だ、食うならあっちにいけ」
「…はい」
ローの言葉に大人しくその場を離れる彼女。
「これは、桃味ですね。私はこれが一番好きです」
去り際に彼女はまだそんなことを言っていた。
ローは頭を抱えると、しばらくその場で考え込んでいた。
ユーリと同じこと言うこのロボットは、まさか本人の記憶でも植え付けられているのか?
ケアロボットがどんなものか分からないが、思わずそう思ってしまうほど、彼女の言動はユーリに似ていた。
最初は姿だけ似てると思ったが、それはどうやら違うようだ。
似てない部分も多くあるが、それでも彼女の何気ない言葉はローの心をかき乱すには十分だった。
ユーリも、レモン味が嫌いで桃味が好きだった。
現にあの瓶の中には、桃味の飴が殆どを占めている。
当時の自分の甘さに嫌気がさすが、今それを問い詰めたところで何の意味もない。
ローは軽く息を吐き出すと、再び仕事に戻った。
あのロボットはやはり厄介だ。
だから早くに手を打たねばと、ローは考えていた。