第1章 前編
「最近卵スープの頻度が落ちてきてるから、シェフに文句言ってきてよ。あと食事の量が少ないのも」
「おれがわざわざそんなことするわけねぇだろうが。分かってて一々言ってくるなよ。めんどくせぇな」
「冷た!コミュニケーションの一環だよ!会話のキャッチボール!ほら投げてこい!」
「…ほんと、色気の欠片もねぇ女だな」
「はぁ!?」
ローの言葉をお気に召さなかったのか、彼女はデッドボールだと騒いでいた。
そんな彼女の様子に、まだ出会った当初の方が女として色気があった気もするが、別に今のこいつも嫌いじゃないと思っている自分もいる。
なんだかんだで、彼女との会話を楽しみにし始めている自分自身に、ローは最近頭を悩ませていた。
海賊と馴れ合う気はない。彼はずっとそう思って生きてきた。
彼の故郷を海賊に滅ぼされて受けた傷は、海賊への憎しみへと変わった。
だから海軍に入り、片っ端から海賊を闇に葬って恨みを晴らしていた。
それがどうだ。目の前の女も海賊だというのに、憎しみの対象から徐々に離れつつある。
むしろ親しみを覚え始めている。
それは大佐という立場で許されない以前に、己の信念に反するものだった。
いい加減、ケジメをつけないといけない。
目の前で飴を頬張りながら、適当に話題を振ってくる彼女。
話題の内容は、船長として過ごしてきた日々のものがほとんどだった。
それを楽しそうに話しているこいつは、きっとまたあの海へ出たいのだろう。
それはもう叶うことのない夢物語だとしても、彼女の瞳は何時もキラキラと輝いていた。
ここ最近、彼女のそんな瞳を見ていると、ローの中で複雑な思いが駆け巡る。
それが何なのか、当時の彼はまだ分からなかった。