第1章 前編
ユーリがインペルダウンに投獄されて数日が経ったある日、ローが彼女を元を訪れてきた。
牢屋の中に閉じ込められている彼女は、壁から伸びている鎖で固定されている。
両腕を開いた状態で身動きできないユーリは、ローの姿を見ると少し驚いていた。
「海軍大佐様がこんなところに何の用?左遷でもされたんですか?」
拷問はないと言っても、こんな薄暗い場所で固定された状態が続けば気がおかしくなっても不思議ではない。
実際、ここに閉じ込め続けていた海賊達は、処刑される日までに頭がおかしくなった奴も多かった。
だが、彼女はケロッとしてる。
まだそんなに日が経ってないのもあるかもしれないが、ユーリの瞳には、まだ光が消えてなかった。
「お前専属の看守に任命された。お前の能力に対抗できるのが俺しかいねぇからな」
ローの言葉にユーリは軽く目を見張る。
海楼石に繋がれている以上、ユーリは無力と言ってもいい。
にも関わらずこの厳戒態勢。
しかも相手はユーリの自由を奪った張本人だ。
彼の持つ能力との力関係も気になったが、どうせ聞いたところで教えてはくれないのだろう。
ユーリは思わず舌打ちをした。
「そう。お手柔らかお願いしますね?と言っても見張る以外何もないだろうけど。あ、それとも食事持ってきてくれるの?じゃぁ私が好きなものは…」
バシッ!!
ユーリが好みの食べ物を口にしようとした瞬間、聞こえてきた鋭い音。
ユーリの頬は熱を帯びて、一筋の血が流れていた。
「口の聞き方には気をつけろよ。自分の立場を分かってんのか?」
いつのまにか開けられた檻の扉。
目の前には、鞭を手にした男が無表情で立っていた。
ユーリはそんな彼を睨んでいると、鞭の先端で顎を持ち上げられる。
交わった視線の先に映る狂気。
ユーリはとんでもない奴が見張りについてしまったと、ため息を吐いてその視線を逸らした。
その瞬間、再び鋭い音が牢の中で響き渡った。