第1章 前編
「言っておくが、お前さんが彼女のことをどう思っていたかは私は知らん。だがな、あの子が死んでからお前の様子がおかしくなったことくらいは分かる。これ以上問題視されたくないなら後は自分自身でなんとかしろ。そのロボットの姿が元処刑人なのは私が上手く上に説明しておく、ありがたく思え」
つるはそれだけ言うとさっさと電話を切ってしまった。
ローは暫く唖然とした表情で電伝虫を見ていた。
そして叩きつけるように受話器を置くと、再び彼女の元へ足を進めた。
「おい、どうしたらお前はここから出て行くんだ?」
本来は力づくで追い出したいところだが、生憎ここは海に囲まれた監獄。
入るのも難しければ出るのも難しい。
そんなことに時間を費やしたくはなかった。
もしくは切り刻んで海に捨ててやろうかとも思ったが、彼女の姿を投影しているそいつに、そんなことができるわけがない。
「契約書のサインと注意事項を聞いて貰わないと帰れません」
「…契約書の予備はねぇのか?」
「ありません。因みに契約者のサインも必要になります」
それに勝手に返送した場合、それは無効となりますので再びこの場所へ送り届けられます。
付け加えるように言われた彼女の言葉に、ローは頭を抱えた。どう足掻いても、こいつをここから出て行かせる方法が思いつかない。
つるは今日本部に戻るはずだ。
「それ以外に何か方法は…」
ぐぅぅ
ローが頭を抱えながら話を進めようとすると、盛大に腹の音が鳴った。
因みにその音源は彼ではない。
ローは呆れた表情でそのロボットを見た。
「お前、ロボットだろ?何で腹が減るんだよ」
「ロボットはロボットでも、人間に忠実に作られています。よって食事を取らないと壊れます。因みに私が好きなものは卵スープです」
淡々と言ってるわりには、自分の好みをちゃっかり伝えてくる目の前のロボット。
ローは次第に頭が痛くなってくるような感覚に陥った。
死んだ彼女が好きだったのも卵スープだった。
監獄の中で食える飯など大したものはない。
それでも彼女は、そのスープを美味しいと言って飲んでいた。
本当は、もっと他に好きなものがあったかもしれないが、それを知る機会はなかった。
「もういい、取り合えず入れ」
ローはため息を吐くと、扉を開けて彼女を招き入れた。