第1章 前編
ローが書類を整理し始めてどれくらい経った頃だろうか、この部屋を訪ねてきた者の1人が言いにくそうに話しかけてきた。
「すいません、外で女性がずっと座ってるんですが、もしかして中将のお知合いですか?」
部下のその言葉に、サインをしていたローの手が止まる。
彼の話す人物に心当たりなど、1人しかない。
時計を見ればあれから8時間は経っていた。
朝からそこにいたことを考えれば、あいつは半日以上ずっとそこにいたのか?
ローは頭を抱えながら書類を部下に渡すと、気にしなくていいとだけ伝えた。
中将であるローがそういうのだから、それ以上彼が突っ込んでくることはなかった。
部下が部屋から立ち去ると、ローはため息を吐いて座っている椅子の背もたれに深く寄り掛かった。
それから暫く何かを考えるように黙っていたローだったが、徐に椅子から立ち上がると扉へ向かった。
「帰れと言ったはずだが、何故まだそこにいる」
扉を開けて視線を横に向ければ、隣の壁に寄り掛かるように座っている彼女。
彼女は視線をローへ向けると、まだ帰れませんとだけ言葉を伝えてきた。
そんな彼女を見ていると、ローの表情は次第に険しくなっていった。
それ以上、その姿をしたまま、おれを惑わせるな。
ローは舌打ちをすると、部屋に戻り電伝虫を取った。
「てめぇ、いい加減にしろ。おれはこんなもの頼んだ覚えはねぇぞ。さっさと引き取りに来い!」
電話を掛けた先は、もちろんつる中尉だ。
「お前こそいい加減にしないか。何時まで彼女を引きずっているつもりだ。いい機会だからその子と一緒に過ごしてみるといい。少しは気晴らしになるだろう」
つるの言葉に、ローは軽く目を見張った。
彼女を引きずるだと?いったい何時おれがそんな行動を取った?
おれがユーリに寄せていた思いなど、誰も知らないはずだ。
……いや
ローは軽く頭を振った。
この女は最初からこのロボットを派遣させてくる辺り、何か知っていたのか?
辿り着いたその可能性に、ローは思いっきり舌打ちをした。