第2章 こらからもよろしく■す。
(さんって最近、よく寝住と一緒にいるよね)
隣の席の子が他愛ない会話の最後にそんな話を振ってきました。少し過去を振り返ります。朝、同じ電車にだったりお昼を一緒に食べたり放課後に帰宅部同士、帰宅したり。
「そうですね。一緒にいる頻度は多目ですね」
(もしかして付き合ってたりするの?)
学生専売特許恋バナです。そう思われても仕方がないくらい墨野君と一緒にいる日常が定着しているのは確かかもしれません。でも
「付き合ってはないです」
(えぇー?本当に?)
「寧ろ迷惑がられているかもしれません」
(何それ)
彼は確かに一緒にいるけれど楽しそうな感じではありませんでした。義務的に、やむを得ずに、彼は私と居る時は何処か必死なのです。顔は大抵、眠たげなんですが。
「彼は良い人ですから」
駅のホームで意識を失って車線に落ちそうになった人を寸前で助けていました。建設途中のビルから鉄骨が落ちて当たりそうになった人を助けていました。火災が起きて置き去りにされた人を助けていました。川で溺れている人を助けていました。包丁を持ったコンビニ強盗から人質を助けていました…
彼は多くの人を無償で助けていました。
「墨野君は凄くて優しい人だから私と一緒に居てくれるんだと思うんです」
(あの寝住が?凄いくて優しい?)
「ええ、普段の眠たげで気怠げな姿は仮の姿なんですよ。きっと」
私は多くの中の一でしかありません。私はあんなに無償に命を省みず人を助けられるでしょうか?
無理ですね。だって自分の命は大切だから。
丁度、予鈴が鳴りました。休み時間の終わりです。各々が席に着いていき墨野君がギリギリで教室に入ってきました。
「…」
「…」
目があったので手を振りましたけどそっぽを向かれました。傷つきはしません。これが日常だからです。
「墨野君は本当に良い人ですね」