第12章 絶佳
暑い夏の日。肩を組み、横一列に並んだ黄色が飛び込んで来た。
その黄色は、私の胸の栓を抜く。
ポロポロと零れる涙は、今までの私と彼を包み込む。
「章吉!」
「まいか…」
解かれた腕がコチラに伸びてきた。
大観衆の中、弱々しく抱き寄せられて引き剥がされた。
「おい鳴子。こんな所で何をやっている」
「ッカァー!離せやスカシ!見て分からんか?!ずっと応援してくれた彼女と喜びを分かち合ってるんですぅー!」
ついさっき、彼と肩を組んでいた背の高い男前が私に小さく会釈をし、くるりと彼の方を向いた。
「鳴子にも彼女なんて居たのか。意外だな」
「なんやて!ワイにも彼女位居ますぅー!」
有り余る元気に、まだ後一日くらいならレースが出来るんではと笑いそうになる。
「章吉、おめでとう、本当に……ごめん、すごいレースやったわ」
言葉が出なかった。流れる涙が口を閉ざさせてしまう。
彼を近くで見てきたからこそ、泣けてしまう。
「…どやった?…初めてのゴール」
漸く出た私の言葉を、一度飲み込み、彼は八重歯を見せて笑う。
そして眩しい陽射しに負けぬ笑顔でこう言った。
「ここにまいかがおるんや。最高のゴールに決まっとるやろ」