第12章 絶佳
「なぁまいか。ワイからチャリンコ取ったら何が残るんやろな」
久しぶりに会った彼がテレビをじっと見て口を開いた。
二年目の夏が終わって数週間が経つ。
今年も彼はゴールに辿り着けなかった。
「何言うとん。アホみたいな事言わんとき」
数週間が経つと言うのに、彼の瞳は赤く腫れている。その理由も、知っている。けど、不用意に触れられない。
「もしもの話や。熱さしか残らんなぁ。カッカッカッ…」
弱々しく笑う彼の横顔は寂しげで、調子が狂う。答えようと言葉を探すが何も無くて、ただただ見つめる事しか出来ないのだ。
「何も言わんでええ。すまんな…久しぶりに会うたのにな…やっぱワイ、チャリンコ辞めた方がええかもな」
真っ赤な髪をがしがしと掻いて言うから静かに首を振った。
何度転けてもその度に大きくなる彼が好きなのに弱々しく下を向く彼に胸が痛い。
「章吉は頑張ったやん。今までの努力とか無駄になってまうよ…」
「わかった様な口聞くなや!」
怒鳴られ、肩が大きく震えた。
下を向いたままの彼の掌に大粒の涙が落ちている。
「…すまん、ほんま…すまん」
二年目の夏の始まり、彼は電話口で私に言った。
__今年はゴールするんや!
叶わなかったその誓い。私はまた言葉を失う。
静かに立ち上がり扉を出る彼を追い掛けられない。意気地無しだ。
廊下の方から、彼の泣き声が漏れ聞こえる。それなのに、私は何も出来ない。
夏の音が聞こえる。ちりん、ちりんと風鈴を揺らす夏風が濡れた頬を悪戯に撫でる。