第8章 WHO
其の手を頬に引き寄せたのは椿がまだ綻ばぬ時期だった。
ふわり、悪戯にスカートを攫う冬の風などお構い無しに掴んだ掌。
ごつり、筋張り傷だらけの温もりは紛れも無くヒーローである証。
「せんせい、だいて」
想いを寄せる相手が一番眉を顰める言葉を吐いて、私は小さな宝石を淡雪に隠した。
「あっ…そこ…」
綻ばぬなら、綻ばせてやろう。何も言わぬ代わりに瞳がそう囁く。
打ちっぱなしのコンクリートは何故だか物悲しい気持ちにさせる。
がらんとした質素な部屋に申し訳程度に置かれた鉄パイプのベッド。
そこで確かめるのは愛、なのだろうか。
「っ、せんせ…イっ、ちゃう…」
差し込まれた二本の指が私のイイトコをしつこく撫でる。
あの冬の日から数年が経った。
先生とは付かず離れず、寒いと心が呼び合うようにふらりと偶に会う仲になった。
「…手、貸して」
空いた手を取り、手の甲に口付けを。相変わらず筋張った手は変わらなくて、消え掛けの想いをそっと守る。
「やりづらい」
「ごめん、でもあと少し」
どこをどう見ても綺麗とは言えない手。だけどこの手がたまらなく好き。
綺麗に整列した五指を崩して静かに口内へと誘う。
違和感を感じたのか秘部を攻められ小さな叫びが漏れた。
「やめろ」
「いや、…ん…そこ良い」
「知ってる」
拒む癖に私の舌を犯して口内をまさぐって、上顎のザラつきを撫でられた。
器用に両手を使って、私を溶かして、先生はずるい。