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ENCORE

第7章 Again


「雪くん、またね」

胸に咲かせた深紅の造花。そこを見つめる事が精一杯だったあの頃の俺が最近夢によく出る。
夢の中じゃ桜吹雪が吹いていて、揺れる髪を小さな手で押さえてアイツが笑った様な泣き顔でそう言っている。
あの頃の俺は言葉を返すこともアイツを引き止めることも出来なかったんだ。


「夢かよ。……昔を思い出すとか女子かよ…」

外は雪。久しぶりの実家のベッドはフカフカでぐっすり眠れたように感じる。時間を確認しようとスマホに手を伸ばすと自転車競技部で寝食を共にした旧友からメッセージが入っていた。

ポップアップは中途半端にしか表示されていない。メッセージアプリを開くか、目を閉じるか、そんな些細な考え事をしていると次はスマホが揺れた。

「よぉ、塔一郎」
「アブユキ!おはよう!」

おはようなどと言う時間か、そんなツッコミは寒さで消された。
通話口の向こうから何やら忙しなく鳴る金属音が、変わらないと告げている様に感じた。

「ユキ、今日来るだろ?」
「あー、おう。行く」
「昨日連絡あったんだ」

がちゃん、重く鈍い音が向こう側で響く。
その一言は、誰からか、なんて一切無かった。だけど寒い冬の昼前。布団にくるまっている筈なのにやけに心臓が冷たく感じた。

「誰からだよ」
「まいかさんだよ」

さっき、桜吹雪の中に立っていたアイツ。
そうか、来るのか。来たって、何もねぇよ。

「卒業式の二の舞にならない様にしなよ、ユキ」
「お前はエスパーか……」

つい十分前、俺にまたねと告げたアイツに一体どんな顔をすれば良いのか分からない。
少し大人になった俺は、あいつにどんな言葉をかけるだろう。あいつはまた俺を見て、名前を呼んでくれるだろうか。
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