第3章 midway
私が初めて見たレースは、最初で最後のレースだった。
真夏だった筈なのに鳥肌が治まらず、そして涙が止まらなかったのを良く覚えている。
彼とひとつになったのはその夜の事だった。
インターハイが終わった直後、電車を待つホームで彼は私に頭を下げた。
「まだ、やり残した事がある」
大学に進もうと思っている、そう告げて彼に抱き寄せられた。
「まだ、暫くは往復切符しか送れねぇわ…けど待ってて欲しい」
「ん、待ってる。靖友が全部やり切ったら迎えに来て」
そう約束をして私達は春を待った。
彼は大学、私は専門。
時間も生活リズムも少しずつズレて行き、私は欠かすことの無かった電話を辞めた。
待とうと決めたのは私だった。だが、日々の波に疲れ切ってしまった。
「…靖友、もう私達無理じゃない?」
「ハ?」
ある日気まぐれで電話を掛けてきた彼に私は別れを切り出した。
私の一言に彼の声色が低くなる。
「なンで」
「靖友にとって私ってなんなのかなぁって思っちゃって。靖友、いい男だから…私じゃなくてもいいんじゃないかなって…ずっと、遠距離だし私だって寂しいんだよ」
「ンだよソレ…ざけんなヨ」
するすると幕が降りていく様な気がした。
誓いを立てたのは私の方だったのに。私から別れを切り出すなんて。
がちゃりと切れた電話、真っ暗な画面を眺めて私は静かに泣いた。