第3章 midway
月夜の窓辺で聞くコール音に胸が高鳴らなくなって随分と経った。
一日の〆作業になりつつあるこの音の向こうにいるのは、中学時代からの付き合いになる彼。
「…はァい」
張りのない弛んだ様な、どこか甘ったるさ滲む声に昔はときめいていた筈なのに今はそうは思わなかったりするんだから時間と言うのは無情だ。
「お疲れ」
髪から滴る雫をタオルに染み込ませて、椅子に腰掛けた。向こうからはザワザワと見知らぬ騒がしさが漏れ聞こえている。
「アー、ウン。お疲れェ」
「誰かといるの?」
十数年の付き合いの中、紆余曲折あった。浮気をしただなんだと揉める事もあれば、会いたいと互いに泣いた夜もあった。
今更、彼の背後に何かが蠢いていても気にはならない。
「飲み会」
あぁそう、と返そうとした時、耳に飛び込んだのは甲高い声だった。
「荒北さ~ん!呑んでますかぁ!?誰と電話ですかぁ?!」
「ッセ…あっち行けヨ」
特に焦る様子も無くあしらう声に、私の些細な不安も吹き飛ぶしそれが私の安心の根っこなのだ。
「荒北さん、優しくしなきゃダメですよ」
「ばァかチャン。多分今日遅くなっからもう寝ろよ」
ずっと若いままだと思ってた。
でも気が付けば周りはちら、ほらと純白を纏い小さな天使を授かり出した。
焦る訳じゃない。それでも、何かアクションが欲しいと考える夜もある。
「はいはい、荒北さんも飲み過ぎには気をつけてくださいね。おやすみなさい」
「ン、おやすみ」
中学の終わり、始まった恋。彼は地元を離れ寮生活を始めた。
大学も別、就職先も別。私と彼の十数年は常に距離が付き物だった。
いつか、同じ地で。そう思い描いて居た筈なのに、上手くは行かないものだ。