• テキストサイズ

ENCORE

第16章 ウソツキのコイワズライ


「なんか書くもん」

シャープペンシルの頭を二回鳴らして彼が手を差し出す。慌てて机からノートを引っ張り出して差し出すと、滑らかにシャープペンシルが泳ぐ。

「…チャリンコ、めっちゃ高いんやで。バイト何ヶ月分やろな。まぁ、気張りや」

手渡されたノートには、私とは違う携帯会社のアドレスが書かれていた。

「うん、約束だよ」

彼とこうして話す時間が、例え嘘を積み重ねて出来上がった物でも、私は幸せで。その現実に目眩を起こしてしまいそうになるのだ。頭に酸素が回らなくて息苦しいのに、胸が弾むのだ。

「さぁーて、もうええやろ?ワイ、部活あるしそろそろ…」

立ち上がろうとする彼の香りに、また胸が高鳴って、また小さな嘘をつく。

「内緒ね、バイトの話。ロード買いに行くのも、内緒」

本当は皆に言い触らしたくて堪らない。彼にも何の気なしに誰かに喋って貰いたい。

だけど誰にも邪魔をされたくないから、私は息を吐くように、嘘をつく。

「わぁーっとる。内緒な」

ひらひらと振る手に目が奪われて、握ったままのノートは少しだけ柔くなっていた。

たった十数分、交わした言葉は復唱出来るだろう。
だけどこの胸の満たされようは、誰にも分かって貰えない。

私とは違う携帯会社、そんな壁いくらだって超えてやる。

一人静かに、橙に染まる白と黒の日誌の上で求人サイトを開いた。
/ 156ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp