第1章 サヨナラ、引き篭もり生活
夢であるならば、覚めて欲しい。早急に。
カーテンの隙間から漏れる微かな光を浴び、目を覚ました。その一筋の光は、真っ暗な部屋の床に散らばる雄英高校からの仕事の文書を照らしていた。その中に、〝採用〟と記された文字が目に入った。その文字を見て、やはり昨日の出来事が夢じゃなかったのだと思い知らされた。
採用を言い渡されたあの後、先生達の話す言葉は上手く頭に入ってこず、無理矢理握らされた採用通知書と手続きの書類、並びに寮母の業務について記された書類を受け取り、覚束無い足取りで家に帰った。私が手にした採用通知書を見てお母さんは喜んでいたが、私はその現実が受け止められず、泣き崩れるような形で昨日寝床についた。帰宅してそのまま横になったから、スーツのままだ。しわくちゃになったスーツを脱ぎ、部屋着に着替え、仕方無く昨日受け取った書類に目を通す。寮母と言っても、食事は各自で準備。部屋の掃除も各々。やる事といったら、共有スペースである1階フロアの清掃と、自分が受け持つ寮の生徒の管理。これは門限をちゃんと守れているかとか、学校に遅刻しないように送り出すとかそんな事。時には生徒の相談に乗ったり。…嗚呼、頭が痛くなってきた。喋れない私が一体どうやって生徒の相談に乗るというのだ。ヒーローとして活動していたのならば、それは人生の先輩、先輩ヒーローとして生徒にとって良き相談相手となれただろうが、生憎私はヒーローとしての活動は愚か、社会人としての経験もない。なんせ、高校卒業して以来、家から一歩も出た事が無い引き篭もりだからだ。そんな相手に相談なんかさせられる生徒の身にもなってみろ。悩みなんか打ち明けられる筈が無い。私が雄英の生徒という立場ならば、引き篭もりのコミュ障に相談なんかしない。