第1章 サヨナラ、引き篭もり生活
私の個性。それは〝言霊〟。私の発した言葉は弟の人使の個性である〝洗脳〟と良く似ている。違う点をあげるとすれば、人使の個性は相手が人使の問い掛けに返事をする事で成り立つが、私の個性は違う。言葉そのものに洗脳と同等の効果があり、それを耳にしてしまえば、洗脳出来てしまう。昔は個性を使おうとしなければ効力は発揮され無かったが、ある事件をキッカケに私の個性の制御は効かなくなってしまった。私の意思に関係なく個性が作動してしまう。私の話す言葉の一つ一つが、誰かを傷付ける凶器となるのだ。だから私は話す事をやめた。それが誰も傷付けず、自分自身も傷付かないですむ方法だったから。
下げた頭を上げ、目の前にいる試験管である先生達を見る。私みたいな人間を雇った所でデメリットしかない。わざわざ個性まで使う必要は無いと思ったが、少しでも早く平穏を取り戻したかったのだ。
「突然喋り出すから何を言うかと思ったら、いやあ、実に面白い!採用だ!」
なんで…!?私は不採用にして欲しいと言ったのに。まさか長く個性を使用していなかったから、個性が使えなくなってる…?
「なんで個性が効かないのかって顔をしてるね。長年個性を使わなかった事により君の個性が無くなった訳じゃない。個性を消す個性の持ち主が今ここに相席していたからだよ。」
個性を消す個性…?そんな個性が存在するのかと、驚いた。あ、そういえば学生時代、噂で耳にした事がある。アングラ系ヒーローにそう言った個性の持ち主がいると。その噂のヒーローであろう黒髪を無造作に伸ばし、気だるげに座る彼を見た。
「という訳で、心操琴葉くん。宜しく頼むよ。」
こうして、私の引き篭もり生活は幕を閉じたのだった。