第1章 幼少期
私は、確か畠山に刺されて、傷は塞いだけれど
ああ…出血多量でぶっ倒れたのか。
城に着いたと思ったら気が抜けたんだ、これは大失態。
伊達の皆様に迷惑かけちゃったな、謝らないと。
というか何で意識があるんだろう、此処は夢の中?
考えに耽っていた頭を振り、周囲を改めて見直して驚いた
ここ、上空に立ってるみたいだけど足元を見たら
ここは生前住んでた家だ。
自分の姿は昔の自分なのかなと身体を見たけどお市のまま
あれ、大人の姿?また何で?
何となく家に近付いて、幽体状態なんだろうな…
庭から家の中を見て、身体が動かなくなった。
居間に、真っ白い死装束を着て真っ白い布団に、顔に被せられる白い布。
あれは、私だ。
部屋は白黒の布で覆われて、祭壇には蝋燭と線香が常時焚かれる様に…父が窶れた顔で私を見詰めている。
「」
父の唇が動く
でも私は父と2人暮らしだったはず…嫁に行った姉が居るのか?父の目線を追うと
私の亡骸の傍を離れない黒猫、私の可愛がってた家族。
動かない身体を無理矢理動かして、庭から家の中に入ってみたけど、私は見えないみたいね
「お前の母さんはもう帰って来ないんだよ」
ご飯を食べなさい、その父の言葉に
この子は私が死んでから何も口にしていないのだと理解した。
黒猫の傍に座り、私の顔から視線を反らさないこの子に、何ができるのだろうか。
私は何でここに来たの?
『置いてって、ごめんね』
名前を、呼んだら突然振り向いた。"私に"
この子…視えるの?
もう一度名前を呼んだら、目に力が、光が宿ったみたいに。
ニャア
『ごめんね、生きて、ね?』
触れる事はできないけど頭を撫でたら目を細める。父は、不思議そうな顔をして
「どうした?」
父さんには見えないから異様な光景かも知れないけど
「お母さんでも居たかい?」
ニャア
「そうか、俺は見えないけど良かったな」
父の顔にほんのり笑顔が戻った。
我が愛猫はいつも頭が良いと思っていたが…猫又になってもお母さんは驚きません
自分の手が透け始めてる、もう戻る時間かな?
ニャア
『いつか、輪廻で会えたら』
消える私に必死に鳴く我が子に微笑み。
この言葉の意味が伝われば、いいのだけど
『父さん、ありがとうございました』
消える直前に、父に向き頭を下げた所で。意識は闇に呑まれた。