第1章 幼少期
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「此の件は織田ではなく私達の、姫様の付き人の忍としての不始末です」
「輝宗様、畠山と残党の処分は我々にさせて貰えぬか」
友人の、織田信長の妹君が使者として来られ
我が伊達の配下にあった畠山は、俺や息子達、景綱そして市姫と付き人の雹牙殿を巻き込んで襲い掛かり
あろうことか市姫に刀を突き刺した。
傷は彼女の婆娑羅でほぼ塞がったものの出血が酷かったのか、着物は赤黒く染まっていて
市姫はここ数日、眠っている。
畠山の処罰をどうしたものかと考えて居た時に市姫の家族、付きの忍2人が頭を下げてきた。
あの日は正直驚いた、普通の若き忍と思っていた彼等の強力な婆娑羅の力
なぜこんなにも実力のある者2人が無名のまま市姫に仕えて居るのか
風魔一族と肩を並べても不思議ではないのに・・・
ある意味納得もしている。市姫が持ってきた信長からの文の中にあった設計図
あれが、あの高度な知識を持つ可愛い妹を全力で守りたいと願う友人の心からの優しさにも感服する。
流石、伊達のひび割れ掛けていた家庭を、怒鳴り込み俺を殴り飛ばしてまで修復させた自慢の友人よ。
妹君も大層大切にしている様だ、そしてこの忍2人も。
「お前達の気持ちも分からなくはないが、畠山は伊達の配下だった身…此方の責任でもあるんだ」
「重々承知していますが、我々は奴の動向に先に気が付いていながらの失態です」
「何だと?お前達は畠山の不審な動きを察知していたのか…?」
黒羽殿の言葉に驚きを隠せなかった
「…お市様が独自に調査し、真実を確める為に自ら赴いて来たのだ」
「私は、畠山の動向を探るべく潜入した矢先、黒脛巾に混ざっていた間者が襲い掛かって来たので始末した所、到着が遅れました」
「…ウスノロ黒羽」
「姫様の側に居ながら怪我を負わせた馬鹿雹牙に言われたくありません」
「待て待て、お前達笑顔で喧嘩するな。婆娑羅が滲み出てるから止めろ」
この忍2人の実力で喧嘩されたらたまったものじゃない。つか怖えよ。
しかし市姫には、否・・・織田には大きな借りを作りっぱなしだな。偉大な友人には頭が上がらん。
「はぁ…信長にも市姫にも大恩がある、畠山の処罰は黒羽殿、雹牙殿に任せよう」
「「ありがとうございます」」
「此方の黒脛巾も、長の時雨が間者の始末をしてるから人手が足りなかった
お前達の申し出は正直有り難い」