第5章 忍物語
06
戦国の世の夜、とある村では大人たちが松明を片手に殺気立ち。
小さな家を囲む様に配置し、男達は鍬や鎌を握り締め扉を蹴破った。
「おい!居ないぞ!!」
「山に逃げたかんもしれねえべ!」
「探せ!」
「あの鬼子め、不気味な妖術を使う。気を付けろ」
村長の娘から生まれ落ちたは良いが、娘譲りの美しい風貌とは裏腹に
人間じゃあり得ぬ猛禽類の様な金色の瞳、気味の悪い闇を操り
子供と思えぬ力に村人は常に怯え暮らしていた。
この騒ぎになったのはつい先日から、村人の人気を集めていた子供の母が
子を庇い続けていた故か、病には見えぬ、不自然な死に方をしてしまい村長の怒りがその子に向いた。
「この小僧が俺の可愛い娘の命を奪ったんだ」
「殺せ、殺せ!俺の前で息の根を止めてくれ!」
男は泣きながら村人にそう叫んだ。
百地丹波はその日、部下を連れて任務に赴き。その帰り、偶然その村を横切ると
村人の形相にただ事ではないと木の上で足を止めた。
「何だ?」
「一揆…でも無さ気ですが」
「…子供がどうとか言っているな、口減らしか?」
「いえ、これは…」
ガサリ
止まってる付近から小さな物音が聞こえ、丹波は部下の制止を振り切り物陰に降りると
まだ、5つくらいであろうか、幼子が息を切らせて此方を見た
顔はすっかり怯えきっている、己が村の者だと勘違いをしているのか?
「!」
ぞろり…
足元で動いた闇に驚き変わり身で瞬時に移動すると、今まで居た場所に
長い漆黒の荊が巻き付き丸太がズタズタに引き裂かれてしまい、確信した
あの村人の狙いは、この闇の婆娑羅を操る子供の命だ。
「おい小僧、俺は村の者でもないし手先でもない」
「長?」
「あ、ちがう、の?」
「お前、名前は?」
「くろば…」
「親は?」
「か…母様、昨日、死んじゃって」
「そうか、辛かったな」
クロバと名乗った子供は己の質問に涙を浮かべ、声を殺して泣く。
ふむ、この闇の婆娑羅は無くしてしまうのは勿体ない。
木の上に視線を向け降りて来た部下の顔を見てニヤリと笑う
「篠山理兵衛」
「何ですか?」
「お前この坊主を養子にしないか?」
「…言うと思いました」
あーもう。