第5章 忍物語
03
姫様に仕え、全国を旅した後はゆっくりと城で過ごされる日が続いた。
そうだ、と何かを思い出し厨の方へ駆ける小さな姫様を見て、雹牙と視線が合う。
「お市様?どうした」
「急にお八つ食べたくなったので甘味作り」
まだ背丈は小さいが、中身は大人らしい姫様の手伝いをしようと
横に立てばきょとり、と私の顔を見て首を傾げる。
「手伝いますよ」
「あ、うん。ありがとう」
ああ、忍装束では汚れているかもしれませんね、着替えて来ます。頭を下げて己の部屋に入り
ええと…姫様から以前頂いた着物と割烹着を付けて戻れば
同じ様な恰好をした雹牙にブフォっと噴出される。
貴方も同じ格好をしてるのに良い度胸ですね。笑顔で婆娑羅を滲ませればスマンと頭を下げられた。
姫様はにこにこと笑っていて嬉しそうなんですが。
「ここに取り出したるは搾りたての牛乳!」
「バターでしたっけ」
「うん、分離させて欲しいです」
遠心分離でバターを取り、タネに混ぜていく。ああ、これは以前尼子で作った事がありますね。
くっきーでしたっけ。
「あ、砂糖切れてる」
「白砂糖ですよね、持って来ます」
「あ、あとしょくらあと?」
「はい、それもですね」
わーい、と嬉しそうに笑う姫様の頭を撫で、厨から姿を消した。
「お市様、黒羽が戻るには少し掛かる」
「ん、一旦休憩しよか」
材料はまだ中途半端だが、これ以上進める事が出来ないため待機してると
背中にぴったりとくっつき甘えるお市様を抱き上げる
何やってるんだと口を開きかけたが、まあ、楽しそうにしてるならいいか
基本、お市様の性格が甘えたなのでこう言う事も珍しくない。
ぐーるぐると回るときゃいきゃいと笑い出して、中身が大人だと言ってるが色々ツッコミたくてだな。
「戻りました。いやあ、自分がこの恰好してたのすっかり忘れてて…何してるんです?」
「いや、何でもない」
「おかえりー」
手を洗い、再び厨に集まって、菓子作りを再開した。
「うん、美味しい」
「ですね」
3人でもっしゃもっしゃとお八つを食べ茶を啜ってるこの時間が
一番幸せなのかもしれない。