第5章 忍物語
02
伊賀から憎き鬼子が安土城に来た。
長の子、その友人の子故に他人が嫉妬する程忍の才に長けている。
己はあの2人を里から出すなと言った。だが、あの鬼子はノコノコとやって来たのだ。
「丹波様、何故…」
「社会見学だ。許してやってくれ」
餓鬼2人に信長公は大喜びで迎え入れたのはいい
何故
何故、妹君であられるお市様の側近を許したのか
「あの者共は!鬼子なのですぞ」
「フン、だから、ぞ」
お市様は知性も飛んで、外見は可愛らしく大人になったらさぞ美しい姫になられるであろう。
その側近になるのであれば、出世も約束された立場に、腹が立った。
憎い、憎いぞ小僧共。お前達2人を俺が引きずり下ろしてくれる。
「?」
「お市様、何故あの忍をお側に?」
「黒羽と雹牙?優しいよ?」
「あの鬼子共はお市様を騙し近づいた下郎者です!貴女に何かあっては織田の忍の面目が丸潰…!?」
ヒヤリと殺気が己の身の周りを覆う。何だ?この、お市様から発せられる威圧感は。
目の前の、十程の幼子の殺気に動けなくなり冷や汗が身体を伝う
そうか、この娘もまた信長公と似ているのか。
「市の悪口はいつでもどうぞ、でも黒羽と雹牙を罵るのは聞きたくない」
「お市様、一体奴らに何を吹き込まれ…!」
カチリ
首元に宛てられた物に気付くと、その顔が怒りの形相になり
己で何を言ってるのか分からないくらいに、目の前の小娘と2人の忍を化け物を罵った
瞬間、男の意識は二度と浮上しなかった。
ぼうっと、首から血を流して倒れた男を眺めて
「大丈夫か?お市様」
「うん、ちょっとね」
自分も化け物呼ばれるとは、分かってたけど。少しきついなぁと悲しそうに笑う
「あの者は伊賀で、私達より早く里を出てます」
「フン、俺達が己より先にお市様付になった事が悔しかったのだろう」
「姫様付は出世株ですからね」
取り敢えず、この件は信長公の耳にも入れておかねば。
黒羽はその場を去り、殿の居る場まで走り。
ぽろぽろと涙をあふれさせる市に、雹牙は慌てて小さな姫を抱き上げた
「あのね、あのっ」
「大丈夫だ。あの様な輩は二度と近寄らせん」
「違うの、違う」
顔を横に振って何かを否定する市の頭を撫で、どうした?と聞く。
「ごめんね。市が弱いから」
自慢の兄が罵られた事に心を痛めている市を抱きしめて
背中を優しく叩いた。