第4章 番外編
明日また非番だから春ちゃんに会いに行くんですと報告をすれば、良い事あるといいねって見送ってくれた。
今日は町外れにある綺麗な花が咲いてる丘に連れ出して。
ここ、俺が尾張に来た時にお市様が教えてくれたとっておきの場所なんだよと言えばくすくすと笑って
「お仕えしてる主様?お優しい方なんですね」
「ん?うん、主は凄く俺の話聞いてくれる。上司は鬼なんだけどね」
「ここ、なんだか夢に出てきたところに似てて驚きました」
「そうなの?うーん、俺のは春ちゃんが俺の顔覗き込んでるのしか覚えてないや」
「…昔、昴さんによく似た男性と会った事があるんです」
「俺に?」
いつもの、夢の話をしていると春ちゃんは珍しく話題を変えてきて。何かを思い出すかのように考え事をしながら言葉を紡ぐ。
珍しいなと、話を聞けば。ううむ、これって所謂、想い人ってやつなのかな。
「黒い服に身を包み、寡黙な方でした。瞳の色は濁り何も映らない、心の無い方だったんでしょう」
ドクリ
何か引っかかる話の内容、何だろう、心に引っかかって、話に聞き入ってしまう。
「小さい頃です、その方に出会ったのは。家の庭に立っていました」
「家の、庭?」
「その方の足元に、赤い赤い曼珠沙華が咲き誇って、見惚れてしまいましたその血の様な紅さに。でも」
彼女の目は虚ろで、その光景を思い出しているのだろうか。
ゆっくり、俺の顔を見るその顔は、感情が抜け落ちた様な、急な変化に目を見開いて彼女を見る。
「彼の足元に転がり、美しい紅を散らせていたのは血を流し、死した父だったのです」
「おとうさん?」
「まじない師と名乗る方から、父を殺した者の正体を聞けば忍だと聞いて」
「今の顔を知りたくば、この香を焚いて眠る様にと。そうしたら」
あなたを見下ろす夢を見る様になったのです。