第4章 番外編
2017ハロウィン:篠山黒羽
ズルズル…と何かを引きずる音。その重い音にふと目を開けると、自分の顔を覗き込むかのように複数の影が天井と周囲を覆っていた。
「っ…」
声を出そうにも息が詰まる音しか出ず、身体も指一本すら動かぬ状態で、恐怖で意識が遠のくまでその影が消える事は無かった
夜な夜な不気味な影に見張られるという者が、姫様に助けを求めに来た。
祈祷師か拝み屋の仕事じゃなかろうかとも思ったのですが、姫様は嫌な顔もせずに引き受けて。今日、その者が相談に来ると言う。
忍の私からすれば矢鱈姫様を民衆に晒す行為はしたくはないのですが。傾国の姫とも呼ばれるお方、一目見たいと画策する者は少なくない。
高台から、今日来る者を見下ろせば。城に来る道中だと言うのに道行く女性に声を掛ける姿に思わず頭が痛い。移り気が多いのかこの男。
城下で、恋仲であろう女性と仲良さげに居たのですが、少し目を離した隙に違う女性と寄り添っていて。ん?と思わず首を捻った。
「貴女がお市様!」
「?」
「いえ、お美しい。こんなにも愛らしい方が尾張の宝であるのが誇りに思います」
もしやと思いましたが、美しい姫様に一目惚れしたみたいですこの男。姫様の後ろで控えているのですが非常に蹴り飛ばしたい衝動に駆られたので。首根っこ捕まえてにっこり
「姫様も多忙な方なので、相談が無いなら捨てますよ?」
「チッ」
舌打ちしないで下さい。こちらがしたいくらいです。姫様の前じゃなかったらシメてたところでした本当に。
夜な夜な、恐ろしい形相の化け物が顔を覗き込んで来る、しかも複数。特にいまは実害は無く。朝になると消えるので睡眠が不足している程度だと。
「祈祷師を呼びなさい」
「お市様に相談しているんだ、あんたには関係無いだろう!?」
「付き人として下らない相談は控えてもらおうか」
「まって」
雹牙と摘まみ出そうとしたら姫様に制止され、何か引っかかるのかうーんと考えながら。
「貴方、複数の女性と関係があったりする?」
「え、いやだなあ。これからはお市様だけを見ます」
「いや。そうじゃなく…」
姫様に指摘されて開き直った男を今度こそ摘まみ出したのは言うまでもありません。ああいう輩は本当に面倒臭い。
男は移り気が過ぎ泣かせた女は数知れず。また恨みも多く買っているので姫様からは彼の姿は人には見えなかったそうです。