第4章 番外編
そんな呑気にしてたから怖い目に遭ったんだけれども。
深夜、ふと目覚めた時に違和感を感じた。
無音、無音を通り過ぎて逆に耳鳴りがうるさくて。
「お市様?」
「誰?」
聞き慣れない声に身体を起こす、寝る前には傍に黒羽と雹牙、昴が居た筈なのに。
目の前には見慣れない全身黒づくめの忍が正座していてこの状況に少し混乱した。
「黒羽?雹牙?…昴は?」
「ここには居りませんよ…お市様…」
「あなたは?」
「私は…――……。貴女を心からお慕いする者ですよ」
ニタリ、笑った男を見てまずい、と背中に冷たいものが走った。
「ああ、お市様。お市様!!私はずっとずっと、貴女のお傍にお仕えできたらと!こんなに近くに居られるなんて夢ではないのかと…」
思わず爪を剥がしたのです。そう言って両手を見せる男の両指に爪は無い。
「市。貴方を知らない…」
「ええ、ええ、私と貴女が初めて会った時、私は事切れる寸前でしたから」
「え」
「貴女を暗殺せよと命が下り、尾張に来て、貴女を見て。嗚呼こんなにも美しい方の喉を掻き切れるのかと。否、生かしておいて私の傍にとも思った所で…憎らしくも貴女の付き人に殺されたのです
憎みました。恨みました。己の運命を、この草の運命を。死してから付きの者を呪おうとしましたが貴女の加護がありましたので」
じりじりと、男は近づき爪の無い手が頬を撫でる。初めて触れた男は恍惚とした表情で「愛しております、お慕いしています」と繰り返す。
「邪魔者の居ないこの空間で、永遠に…」