第4章 番外編
「参った」
「どうされたんです?」
どうしたもこうしたも。
あの爪、何か変なものだったみたいで。うっかり素手で触ったのが原因よね。
カリカリカリと、脳内でずっと何か引っ掻く音が止まないんです。
今は微々たる音で、何かに意識を集中させれば気にならないのだけれども。
「ここ数日、拷問してた忍が亡くなった、とか裏情報ある?」
「裏情報ですか、いえ、今捕えてる忍はいませんよ」
「市なにか気に入られる事したかな」
「?」
いや、多分小者だと思うけど何かに憑かれたみたいだと言えば、黒羽の顔色がさっと青くなった。
「姫様、それ」
「今のとこ実害無いから、寂しくなくなったら離れると思うのだけど」
「信長公に報告しましょう」
「兄さま?ううん、この程度の事で気を煩わせたくないの」
暫く黙ってて下さいとお願いすれば、今日から私達も一緒に寝ますと言ってくれて。ううん、そんな気を使わなくていいのに。
…あ、を… して………なた、あ…い……お…い……して…
声が、聞こえるようになった。何を言っているか分からない。途切れ途切れの言葉。爪の件で何かに憑かれたのは自覚したけど肝心な人格が出てくる事は無かった。
最初は爪で何か引っ掻く音だったんだけど、徐々に聞こえてきた言葉に首を傾げる。
「呑気だな」
「音や声が聞こえるだけなの」
「普通はそれすら嫌がりますよね?」
昔なら私でも怖いって怯えるけど。この世界に来てから色々免疫がついたと言うか。図太くなったと言うか。