第4章 番外編
「不思議な娘ですよね」
俺を一目見て正体を見破ったんですよ?
「貴様…お市様に何を…」
「安心して下さい。何もしていませんよ。ただ」
人間の娘に頭を撫でられるなんて思いもしませんでしたが。クスクスと笑う昴の顔がどんどん崩れて、正体を現したのは酷く顔の綺麗な男の様な者
「人間は今でも食い千切りたくなる程憎い、貴様もあの男共のような野蛮なモノであったら殺している所だ…だがなあ、もう血は啜りたくないのだよ
…此度は偶然近寄った野盗共を食いお前達を誘き寄せた、長年このように生きていたら我が身が穢れで朽ちてしまう。瘴気は木の内部に侵食していて中はもう腐っている」
あの娘は我を葬ってくれると約束したでなあ。貴様等人間の主にしておくには勿体ない。
「お前ならば、我の本体を粉々にできるのであろう」
「お市様なら自分で祓うと言っただろう。わざと置いて行った理由は?」
男は、少し考える仕草をした後、あの娘にこの瘴気は毒だろうと微笑むが本心は別だろう。あの方は、そう思わせる方だ。
ポンポンと頭を、先程昴の姿をした状態の時にやった仕草を真似されて。おい止めろ、俺は子供ではない。
「新鮮であったのでな」
「手前」
「さて、ここまで言えば十分か?」
「…ああ」
思い切り、氷で辺りを覆うとそれらを眺めて美しいなと言葉が聞こえた。
あの娘に息災であれと伝えてくれ、氷の婆娑羅で覆われる直前までお市様を気遣う男の顔は、まるで会いたい娘に会えたかのように、満足気であった。