第4章 番外編
2016ホラー企画:お市
『痛い、痛い』
『やめて…やめて…』
『どうして?』
『〇〇さま…どこ?』
『どうして"市"だけこんなに苦しいの?』
虚ろな人影が、顔だけ此方を向く気配
その気配に思わず1歩下がって
嗚呼、私は彼女の人生を奪った本人だ。
するり、と白い手が私の首を徐々に絞めていき
『どうして、貴女も"市"なのに、幸せなの?』
私は…
市は…
「市(貴女)を助けたかったの」
彼女の生きる場を奪ったのは私だ。
ぼろぼろ ぼろぼろ零れる涙が止まらなくて
「ごめんなさい、ごめんなさい」
貴女の居場所を奪ってしまってごめんなさい。
私が居なければ、市が居なければ。
彼女の眠る寝室で、ここの主の闇では無く。
黒羽でも心当たりの無い婆娑羅が主の部屋に充満していて
己の主が目覚めなくなってしまった。
「姫様、姫様!」
「お市様」
兄と慕う忍が、抱き上げても揺すってもピクリとも眼を開ける事が無く
雹牙、黒羽、昴は食事も摂らずに、毎日祈る様に主に声をかけ傍らから離れない
そこへ、実の兄が事情を聴きつけ市の部屋へと赴いた。
私は、暗い暗い闇の底に居る
ここに来て何日経ったのだろうか?
私の隣には同じ顔…私が奪った身体の持ち主であろうか?
お市がぴったりくっついて離れない
というか甘えられてる?
「ええと市ちゃん?」
『なあに?』
「市ちゃんは…市、否、私を恨んでる?」
急に問われた質問の内容にきょとんとしてから
クスクスと笑われた。あれぇ?
『貴女は市の身体になってからも悪い事してないもの』
「何で私…怒ってたんじゃないの?」
『ううん、ちょっと一人占めしたかった』
何か…可愛い理由に私がノックダウンされそうなんですが
何て美人だろう、と思ったらナルシストになりますよね。自重します。