第4章 番外編
2016ホラー企画:昴
「?」
ふと、名前を呼ばれた様な気がして・・・
任務帰りにお土産片手に木々の枝を蹴る足を止めた。
別に止まらなくても良かったんだけど、もし間者だったのであれば
尾張まで着いて来られたら俺がしこたま説教食らうだけで。
うん、黒羽さんと雹牙さんに怒られたくない。
自分もつくづく丸くなったなぁと思いながら安土に向かう足を速める
お市様に拾われるまでは無感情、無表情が常だった
前の主は己の出世ばかり狙う老将。
だから己の婆娑羅を見せなかった。
忍にあるまじき事だと思うけど、知られたらどう扱われるかとか考えたくもない。
『昴』
今度はハッキリ聞こえた声に警戒し銃を構える
誰だ?気安く俺の名前を呼んで良いのはあの方達だけだ。
しかしこの声は耳に覚えがある?
「誰ですかー?俺今大切なお使いの最中なんですよね」
気配の無い声にやれやれと、休憩する為地面に座り込んだ直後
地面の感覚が無くなって、まるで深い深い湖に落ちた体制になって目を見開く
「なっ!?」
ゴボッと肺から空気が逃げて行く。何とかして上がろうと思った瞬間
目の前に現れた者に驚いた
豊臣の、あの老将に仕えてた頃の自分?
『昴・・・貴様、貴様ぁ!自分のクセして。くそ!』
「ぐ、やめ・・・」
ギリギリと絞められる首、水の中で呼吸ができない自分に苛立つ
『昴、随分良い暮らしに身を投じたものだな。感情を露わにし婆娑羅の制御を覚え、麗しく優しい主へと仕えた貴様がこのまま安納とした暮らしが出来ると思っているのか?』
「っち」
恨み事を吐くこの自分は何なのか。
瞬時に婆娑羅を発動させ、水のような場から這い上がり急いで木の上に飛ぶ
奴は顔を出してギラリと睨んでくる。
ああ、懐かしい。自分があそこにまだ仕えてた時は、表情なんか出した事無かったっけ
『貴様が憎い、憎い!今仕えてる者は貴様が、俺が殺そうとしてたくせに』
「あいつの命令でだけどね」
元主、あの者はすぐさま処罰されたらしい、竹中様の事だ首を斬り捨てたな
『ああああ、俺は未だにあの爺の悪夢に憑りつかれているのに!!!
憎いぞ昴!!憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い』
この自分は"何"だ?
自分自身はここに、居るのに。こいつは自身は俺と言う。
何かがオカシイ感覚、それでも懐かしいと感じるこの存在