第4章 番外編
1周年ありがとう企画
最近になって、子供の声が庭から聞こえてくるなと。
障子を僅かに開ければ見えるのは侍女と思わしき女に声を掛けられながらも
無視して木に登り、クスクスと笑う幼子が1人。
「どうした」
父の声にあれは何だと言えば。
庭を一瞬見た男の顔が僅かに歪み舌打ちが聞こえる
「またあの娘は・・・お前の妹だ」
自分に妹が出来て居たのかという事実と、あの幼子を忌々しいと言わんばかりの父の様子に
正直驚いた。
何故あんなにも健気に笑う娘を忌む事ができるのか。
お市と言う名だと聞かされて、ここは兄らしく顔を出すべきか?
数日、妹に会うかどうかを考えて、ふと庭先に出た時だった
黒い忍服を纏った男が、小さい妹の前に現れ。
危ない、と走り出した所で妹の身体から婆娑羅が放たれ忍を飲み込み。
パタリと倒れた妹に駆け寄り状態を確かめる
「ぃ・・・市、市?」
初めての婆娑羅の解放に気を失なっただけで済んだと安心して。
これは厄介だ。あの男は闇の婆娑羅を嫌う。
否、態度が大きい癖に臆病者の父の事だこの先、妹がどうなるか
検討もつかない。
慌てて駆け寄って来た侍女に事の次第を告げて。
そのまま部屋に戻ったのを後悔した
父が、妹を幽閉したという報告を
妹の侍女から聞かされ、侍女もまた妹の目附役を辞めさせられたと言う。
「あの臆病者めぇ・・・」
いずれ父を亡き者とし、妹を救い出さねば
己の闇の婆娑羅が、妹の婆娑羅と共鳴しているのか
悲しい、淋しいと婆娑羅から伝わって来ていた。
そして数年の時を掛けて己れの、当主の政務をこなせる様になった後
「ギャアアアア」
「ふん、地獄の果てで悔やむが良い」
臆病者の男を斬り捨てて。
俺・・・否、余が織田を支配し、妹を解放する事に成功した。
謁見の場にて現れた妹は、あの時よりも痩せたか。
表情を何とか笑顔にしようとし
辿々しい、言葉が上手く出なくなってしまったのだろう
小さな妹の頭を撫でると。
誰にもこんな事をされた事無いと言うような表情をして。
無意識だろう、あの頃の様な笑顔を再びくれた。
余の目が黒いうちは
再びあのような目に会わせまいと誓った。
「兄さま、今いい?」
「入れぇ」
周囲が余を畏怖の目で見るなか、無邪気に訪れて来る妹。
頭を撫でると猫の様に目を細める妹に
荒んだ心は晴れていった。