第2章 本編1〜70
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「・・・帰ったか、市ィ」
「へ、兄さま?」
はー、やっと尾張に帰って来れました。
城門の方にただいまって言って兄さまの部屋に向かおうとしたんだけど
兄さまどこから出てきたの?口から心臓出るかと思ったよ
門くぐってから抱き上げられて思わず周囲を見渡して
あー・・・だからうちのお兄さん達すぐ居なくなったのか納得。
ひとこと言ってよもう
抱き上げられて、視界が高くなった状態のままスタスタ歩く兄さまにしがみついて
ぽそぽそと、ただいま。遅くなってごめんなさい。もう大丈夫です。
小さな声で話してたら、広間の前ですとんと降ろされ部屋には複数の気配?
そっと開けようと手を伸ばした瞬間、スタンと襖が開いて肩が跳ねた。
「お帰りなさいませ、お市様」
「信長様!お市様!」
飛び出して来た蘭丸を咄嗟に支えるとぎゅうぎゅう抱き締められるものだから何がなにやら
熱烈なお迎えだと笑みが溢れた
襖を開けた光秀にただいまと言いながら部屋に入ると背後の方でハリセンの音が響いて。おっかないおっかない。
「お帰りなさいお市、大変だったわね。もう大丈夫なのかしら」
「義姉さまただいま、兄さま居て驚いたの」
「上総介様ずっと心配なさってたのよ?」
「フン」
義姉さまに抱き締められたの良いけど何で兄さまはあそこに?
心配で出迎えに来ちゃったの?
義姉さまの横にどっかり座った兄さまを眺めつつ聞くとニヒルな笑みが返って来て
ああ、何か・・・光秀と蘭丸も家族なんだなと幸せな気持ちに浸ってしまう
「此方に挨拶は無いのかね?」
「一生懸命存在を無視してるんだから話掛けないで」
「相変わらずつれないね」
「松永ァ、貴様何故通された部屋を抜け出した」
あ、別室に一応隔離されてたのかこの椎茸。
荷物を置いてきたお兄さん達に追い掛けられて行ったけど何だ何だ?
「ああ、ご安心下さいお市様。お市様を嫁にと言ってましたがとうに却下されたので」
「兄さまありがとう!」
「何やら怪しい香の様な物は、お市様へのお土産だと持って来ましたが」
「良い予感がしない!?」
んふふふふ、と笑いながら
光秀は忍に検分させた包みをスッと差し出した。